酵素の阻害

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8-21-2017 updated

  1. 概要: 酵素の阻害とは
  2. Competitive inhibition
  3. Uncompetitive inhibition
  4. Noncompetitive inhibition


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概要: 酵素の阻害とは

下の表は、主に文献 1 の内容をまとめたものである。E, S などの用語に馴染みがない場合は、酵素のページ および Michaelis-Menten のページを参照のこと。

可逆的阻害は阻害のパターンで反応速度論的観点から 3 つに分類しているが、不可逆的阻害は酵素への結合部位による分類なので、区別して理解すること。


不可逆的阻害
Irreversible inhibition

Group-specific reagents

不可逆的阻害では、一般に阻害剤と酵素の解離 dissociation が非常に遅い。

アミノ酸の特定の側鎖に結合して阻害。

例: DIPF, iodoacetamide,

Reactive substrate analogs or affinity labels

構造的に基質に似ていて、active site に 共有結合する。

例: TPCK

Suicide inhibitors or mechanism-based inhibitors

基質に構造が似ていて、中間体の状態で酵素に不可逆的に結合して不活性化する。

例: N,N-dimethylpropargylamine, (-)deprenyl はパーキンソン病やうつ病の薬、ペニシリン

可逆的阻害
Reversible inhibition

拮抗阻害
Competitive inhibition

  • KM: 上昇
  • Vmax: 変わらず

可逆的阻害では、阻害剤と酵素の解離は早い。

拮抗阻害では、酵素 E は基質 S または阻害剤 I のどちらか一方とのみ結合できる。ES または EI は作れるが、ESI は存在しない。

阻害剤はしばしば基質と似た構造をもち、酵素の active site に結合することによって ES の形成を妨げる。過剰量の基質を加えることで阻害効果が低下する。

例: Methotrexate, ibuprofen, statin

不拮抗阻害
Uncompetitive inhibition

  • KM: 低下
  • Vmax: 低下

阻害剤は E には結合せず、酵素と基質の複合体 ES にのみ結合する。つまり複合体 ESI が存在し、この状態では P が作られない。

E は基質との結合によって高次構造が変化し、阻害剤が結合できるようになる。過剰量の基質を加えても、阻害剤の作用は低下しない。

例: Glycophosphate

非拮抗阻害
Noncompetitive inhibition

  • KM: 変わらず
  • Vmax: 低下

基質と阻害剤は、酵素 E に同時に結合することができる (異なる部位に結合する)。阻害剤は ES 量を減らすというよりは、ES から E + P へのターンオーバーを減らすように作用する。

例: Deoxycycline,

拮抗阻害 Competitive inhibition

Compatitive inhibition では、阻害剤 I と酵素 E が「普通に」結合・解離するので、解離定数 dissociation constant を考えることができる。

反応式は

E + I ⇌ EI

解離定数 Ki は


Ki = [E][I]/[EI]


である。Ki が小さいほど [E] および [I] に対する [EI] の比が大きいため、強い阻害剤である。

拮抗阻害は見かけ上 Michaelis-Menten 定数 KM を大きくするように作用する。つまり、同じ反応速度を得るために高い基質濃度が必要になるということである。この新しい Michaelis-Menten 定数は KMapp と表され、解離定数 Ki を使って

KMapp = KM(1 + [I]/Ki)

となる。

一方、competitive inhibitor は Vmax には影響しない。これは、基質が過剰量存在するとき、E と I が結合する余地はなく、全ての E が ES となっている 状態であることを想像すれば理解できるだろう。

不拮抗阻害 Uncompetitive inhibition

Uncompetitive inhibition では、複合体 ESI が存在するために「全ての酵素が P 産生に寄与する」理想的な状態になることができず、したがって Vmax が低下する。

また KM は低下する。なぜならば、ES の一部が ESI となるために、E + S ⇌ ES の平衡が右へシフトし、低い基質濃度で「全酵素の 1/2 が S と結合している状態」が達成されるためである。


非拮抗阻害 Noncompetitive inhibition

非拮抗阻害剤と結合した酵素は、基質との結合については通常の酵素と同じように振舞うが、結合後に P を作ることができない。つまり、酵素の中に一定量の「不良品」が混じるようなもので、触媒可能な酵素濃度が低下する と考えるのがわかりやすいだろう。

酵素濃度が低下するとき、Vmax は低下する。これは感覚的にも納得できるし、Michaelis-Menten のページ の本番 3 で Vmax = k2[E]T と定義したことを思い出せればなお良い。低下後の Vmaxapp は、

Vmaxapp = Vmax/(1 + [I]/Ki)

になる。

一方、Michaelis-Menten のページの式 8 によると、KM = [E][S]/[ES] である。E, S の結合については阻害剤がない状態と何も変わらないので、ミカエリス-メンテン定数も当然変化しないことになる。

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References

  1. Berg et al. Biochemistry, Seventh Edition: 使っているのは 6 版ですが 7 版を紹介しています。