原子量、分子量、式量、質量などの意味と違い

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2018/11/21 更新

  1. 国際単位系 – 国際単位系
  2. 定義
  3. 電気泳動図での示し方

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国際単位系 – 何を参考にすべきか

分子量、原子量などを定義するにあたって、まずは「何を参考にすべきか」を確認しておこう。

分子量などだけでなく、メートルやモルなど、単位に関わるルールの中で最上位にあるのは 国際度量衡局 (国際度量衡局 Bureau international des poids et mesures; BIPM) である。略語の BIPM はフランス語であり、この分野ではフランスが世界の中心である。全ての単位は BIPM の定義に基づいている。

BIPM の公式ホームページは ここ にあり、タブから SI 単位系 のページに行くことができる。SI 単位系とは International System of Units (フランス語 Système International d'Unités) の略であり、ここに以下の基本単位の定義が載っている。

  1. メートル
  2. キログラム
  3. アンペア
  4. ケルビン
  5. モル
  6. カンデラ

全ての単位は、この 7 つの基本単位から導くことができる。BIPM による定義は「国際単位系 (SI) 国際文書」という形で発行されており、最新版は 2006 年の第 8 版で、2014 年にアップデート版が出ているようである。

日本では、産業技術総合研究所 計量標準総合センター が上記の国際文書 2006 年版の日本語版を発行している。これもウェブ上で Pdf ファイル として入手できる。2014 年のアップデート版はみつからなかった。

つまり、少なくとも単位の定義においては以上の公式サイトまたは文書が最上位であり、教科書、辞書、ネット情報などよりも信頼されるべき存在である。

定義

原子量 atomic weight

原子量 atomic weight (相対原子質量 relative atomic mass とも言う) とは、12C の原子量を 12 として表される相対量 であり (Ref 6; BIPM 公式)、単位のない無次元の量である

この定義には、歴史的な変遷がある (6)。当初、物理学者は 質量分析 により酸素同位体 16O、17O および 18O を分離しており、16O の原子量を 16 として他の分子の原子量を定義していた。しかし、化学者は 3 つの同位体の混合物の原子量を 16 として原子量を定義していたため、両者の間にはわずかな値のずれがあった。

1959 年末に現在の定義が合意され、炭素の同位体のなかでも 12C のみを使って原子量を定義することで、原子量はすっきりした値になった (6)。この点をはっきりさせるため、原子量は relative atomic mass Ar(12C) と書かれることもある。

なお、2013 年の文献 1 には以下の記述があるが、これは 16O を基準とした定義とごっちゃになった間違いであると考えられる。しばらくこのサイトでも引用していたので一応残しておくが、取り消し線を引いておく。

現在の基準では、天然の同位体比をもつ元素の平均原子質量と、12C の原子質量の 1/12 の比として定義される。この「天然の同位体比をもつ」というのが複雑なところで、天然では約 1 % の割合で 13C が、さらに少ない割合で 14C が存在しているため、炭素の原子量はちょうど 12 にはならず、12.01 となる (1)。



分子量 molecular weight

ある化学物質の分子量 molecular weight は、その分子を構成する原子の原子量の和 であり、やはり無単位である (1,2)。

Relative molecular mass とも呼ばれ、Mr の記号で表される (5)。

タンパク質電気泳動 (SDS-PAGE) の図でよく出てくる kDa は、以下に示す「質量」の単位なので、分子量と混同しないこと。Molecular weight という用語が混乱の一因になっている。Relative molecular mass という別名も覚えておいた方が良いだろう (1)。


式量 formula weight

式量 formula weight は、分子量と同様に化学式の中に含まれている原子の原子量の総和であるが、その構成単位が分子として明確に決められない場合に用いる言葉 である。

たとえば KCl は、便宜的に 1 分子のように書き表しているが、結晶状態では K と Cl が格子状に結合しており、KCl という単位での区切りは存在しない。水溶液では K+ と Cl- に電離しており、これも KCl という単位ではない。このような場合に式量という言葉を用いる。

イオンではイオン式量、高分子では高分子式量を用いるなど、包括的な物質量を示す用語である。

同じ考え方で、タンパク質の複合体も「構成単位が分子として明確に決められない」構造である (1)。このため「ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の分子量」などという表現も正しくなく、質量を用いるべきである。


質量

単位をもたない原子量、また原子量の和として定義されているために同様に無単位の分子量および式量に対して、質量 mass は 単位をもつ量 である。よく分子量の単位として誤使用される Da は 1924 年に提案され、2006 年に国際単位系国際文書第 8 版によって正式に認定された (1)。静止して基底状態にある自由な炭素原子 12C の 1/12 に等しい質量 として定義されており、これは 1.660538921 (73) x 10-27 kg に等しいようである。(73) は不確かさを示す。

意味するところは相対量である原子量と異なるが、数字は同じになるため、混乱を招きやすい。


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電気泳動図での示し方

以上の定義から、文献 1 の筆者が指摘しているように 分子量 molecular weight の単位として kDa を使うのは誤りである ということになる。最もよく使われるのは、下のような ウエスタンブロット の図だろう。

Lee et al. 2008

この図 (3) のように、kDa と書くときは Molecular weight と書いてはいけないということ。また、キロは本来小文字で表記するのが正しいようだが、これはまあ良いのではないかという気がする。

ただし、最近はメンブレン全体を載せている図は皆無に等しく、ほとんどが下の図 (4) のように分子量 (質量) すら載せていない。タンパク質名を示しているだけである。この風潮についても、市販の抗体がどの程度信頼できるかという観点から、いずれ考察してみたい。

Kang et al. 2013
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References

  1. 吉野 2013a (Review). 意外に知らない分子量と質量の単位の違い. 生物工学 91, 464-468.
  2. Amazon link: 岩波 理化学辞典 第5版: 使っているのは 4 版ですが 5 版を紹介しています。
  3. Lee et al. 2008a. The Caenorhabditis elegans AMP-activated protein kinase AAK-2 is phosphorylated by LKB1 and is required for resistance to oxidative stress and for normal motility and foraging behavior. J Biol Chem 283, 14988-14933.
  4. Kang et al. 2013a. Dimethylfumarate suppresses adipogenic differentiation in 3T3-L1 preadipocytes through inhibition of STAT3 activity. PLoS ONE 8, e61411. Link
  5. Amazon link: Hine (2015). Oxford Dictionary of Biology.
  6. BIMS Unit of amount of substance Link: Last access 2018/11/21.