アメリカの研究費のシステム:
NIH, NSF その他民間ファンドなど

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このページの最終更新日: 2024/02/14

  1. 概要
  2. NIH グラントの種類
  3. NSF グラント
  4. その他のグラント
  5. ポスドク・院生のためのスカラーシップ
  6. グラントと給与
    • 教員
    • ポスドク
    • 大学院生

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概要

研究のために資金が必要なのはどこでも同じであるが、アメリカの研究費事情は、日本のそれとかなり異なっている (1)。大きな違いとしては、次のような点が挙げられる。

  1. 教員、ポスドクの給与のうち、かなりの割合が競争的資金に依存している。そのため、外部の競争的資金を獲得できない研究者は、十分な給与を得られないというサバイバル的環境である。
  2. 大学院生も、教員のグラントから給与をもらう。
  3. 教員は、外部資金を獲得した際に 間接経費 overhead cost/indirect cost を大学に納める。これが十分でないと、講義などを増やして労働力で大学に貢献しなければならない。日本にも間接経費のシステムはあるが、多くの場合講義の配分とは関係していない。

まず最初に強調しておきたいのは、私は アメリカの研究費システムが良いものだとは全く思っていない ということである。私は、基本的に現代の科学システムでは 評価者の権限が大きくなりすぎている と考えている。

この現象は、いわゆる「一流誌」の査読や、競争が激しいアメリカの研究費審査でとくに顕著である。外部評価の有用性は否定しないが、バランスが取れていない状態に見える。たとえば、以下のような点である。

  • 研究大学では、グラント獲得実績が終身雇用に繋がる。場合によっては論文よりも大事。
  • 論文にできるほどの preliminary data を注ぎ込むと、通りそうな申請書が書き上がる。もちろん、さっさと出版した方が科学への貢献になる。
  • 査読者が明らかに間違って指摘をしていても、それで低いスコアをつけられたらリジェクトはリジェクトである。反論が受け入れられる可能性は低く、グラントなら反論するにも数ヶ月 ~ 一年待ち。

アメリカの研究費審査は日本より公平だとか、研究計画をしっかり書かなければいけないのでちゃんと計画に基づいて審査しているとかいうお花畑的な話も聞くが、私にとってはむしろ逆である。研究はそもそもどう転ぶかわからないものなので、詳細な研究計画を書くということは、既に終わってる実験について書くか、その通りにやらないこと前提で通りそうな計画を書くかのどちらかになってしまう。

どうせ本質的に不公平で適当なものなのだから、数枚の書類ですむ日本の申請書の方が理にかなっている。

よって、このサイトの研究費関連のページは、アメリカにせよ日本にせよ、それらを褒め称えるものではなく、この破綻しつつあるシステムの中で、なんとか利を得て生き残っていくための方便をまとめたものである。

メモ的なリンク。

NIH グラントの種類

NIH (National Institute of Health) は、公的研究費を支給しているアメリカで最大の機関であり (6)、研究費は以下の 4 つに大別される (2)。それぞれはさらに細分化されている。ここでは、NIH Grant についてまとめる。NIH グラントの書き方 も参照のこと。

  1. NIH grant
  2. NIH contract
  3. Cooperative agreement
  4. Research training

なお、RePORT というページから、誰がどんなグラントを受け取っているか調べることができる。

NIH 所外研究費の大部分を占める。ほとんどは、研究者がアイディアを出す ボトムアップ型 の研究費である。非常にたくさん種類がある。

NIH のグラントは、基本的に 年に 3 回申請することができる。締め切りはグラントの種類によって異なり、1, 5, 9 月のものや 5, 7, 12 月のものなどがある。いずれもほぼ等間隔のインターバルである。2016 年 12 月の時点では、このページ に締め切り日の一覧が載っている。

以下の表は複数の情報源 (2,3) の寄せ集めである。各グラントの性格を把握するのには有効と思われるが、古い情報もあるかもしれないので、正確なところは NIH の公式サイトで確認して頂きたい。


K Grant

K Grant (Career development Awards) は、若手研究者の独立支援という性格をもっているグラントで、K Awards ともいう。基礎研究者向けと臨床研究者向けがある。NIH のサイト (4) で 2015 年 7 月に確認できたものを赤字で示しておく。

Grant Year $/year Comment
K01 3 - 5 12万

Mentored Research Scientist Development Award. メンターのもとで、独立した研究者を目指す。

K02 5 12万

Independent Scientist Award. 新規に PI になった研究者のためのグラント。

K05 5 12万

Senior Scientist Award. 独立した研究者のためのグラント。

K07 2 - 5 12万 Academic Career Award. 臨床研究者のためのグラント。
K08 3 - 5 12万

Mentored Clinical Scientist Development Award. 臨床研究者が基礎研究を始めるためのグラント。

K12 5 40万

Mentored Clinical Scientist Development Program Award. K08 よりも長くて高額。

K18 0.5 - 2 17万

Career Enhancement Award for Stem Cell Research. Stem Cell を使った研究を始める若手への支援。

K22 3 12万

Career Transition Award. ポスドク経験 2 年以上、独立した研究者として 2 年以下の人向け。さらなるキャリアの発展を支援。

K23 3 - 5 14万 Mentored Patient-Oriented Research Cereer Development. 臨床研究を始める若い研究者のためのグラント。基礎から臨床への transition か。
K24 3 - 5 10万

Mid-Career Investigator Award In Patient Oriented Research. 臨床医学研究歴 15 年以内の中堅クラスの臨床研究者。臨床家に臨床研究の時間を確保し、臨床研究の指導者となることを目標としたグラント (2)。R01 をもっていないと申請できない (4)。

K25 3 - 5 14万

Mentored Quantitative Research Career Development Award. 工学から基礎医学、臨床医学の方向を目指す。

K26 3 - 5 13万

Mid-Career Investigator Award In Mouse Pathobiology Research.

K30 5 20万

Clinical Research Curriculum Development. 臨床医学分野での新しいトレーニングプログラムの開発などのためのグラント。

K99

Pathway to Independence Award. R00 とも。ポスドクの final stage から independent へのキャリアアップ。ポスドク経験 4 年以内。


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R Grant

R01, R03, R21 には米国市民権は不要である。しかし、その他のほとんどのグラント (とくに K Awards などのキャリア支援型ものも) は米国民を対象としたものである。

Grant Year $/year Comment
R01 3 - 5 25万

Traditional Research Grant. これを取れたら一人前の研究者とされる。日本の科研費とは違って 期間満了後に更新が可能 である。もちろん、その際にも審査が必要である。また、一人の研究者が複数の R01 を取ることも可能。結果を得られる可能性の高い、過度にチャレンジングでない研究が対象である。2015 年の採択率は約 13%。

R03 2 年以下 5万

Small Grant と呼ばれる。Pilot study, development of research technology などを支援する。更新できないのが特徴。2015 年の採択率は約 11%。

R15

Education grant、学部生を研究にリクルートすることで教育につなげるようなプロジェクトを支援。

R21

Exploratory/developmental Grant という。

R29 5 35万

First Grant と呼ばれる。5 年間で 35 万ドル。5 年以上の研究経験があると申請できない。

NSF グラント

National Science Foundation (NSF) は、NIH とともにアメリカの 2 大グラントもとである。健康に関連する研究を支援する NIH に対して、NSF は一般科学を支援する。日本のシステムに例えると、NIH は厚生労働省、NSF は文部科学省に相当すると言えるだろう。

検索は このページ から行うことができる。NIH と異なり、NSF への申請は基本的に 年 1 回のみ である。

その他のグラント

その他、それぞれの州、民間企業、学術支援団体などもグラントを提供している。とりあえず、私のアンテナに引っかかったものを表にしておく。数が増えてきたら整理する。

研究費

グラント コメント

USDA

United State Department of Agriculture、つまり日本の農水省に相当する。NIH、NSF ほどの規模ではないが、農業に関係しそうなテーマのグラントがある。

NOAA

National Oceanic and Atmospheric Administration、アメリカ海洋大気庁と訳される。大気、海洋関係の研究に対して予算を提供する。

地球温暖化を信じていないトランプによって、予算が大幅にカットされたことがある。

TWAS

毎年 5 月。発展途上国で働く研究者限定。$15,000、2 年間、更新あり。この団体はスカラーシップも出している。

RWJF

Robert Wood Johnson Foundation.

ニュージャージー州に本拠を置く団体で、健康に関する研究を支援。特定の募集ではなく、常に proposal を受け付けている。

HFSP

Human Frontier Science Program, スカラーシップは次の表を参照のこと。

代表者は、いわゆる「先進国」で構成される member country の研究者でなければならない。

Jefferson Science Fellowship

毎年 8 - 10 月。Fellowship という名前だが、establish された科学者向けの fund の模様。NAS から。

ポスドク・院生のためのスカラーシップ

アメリカでポスドクまたは大学院生として働く場合の給与の出どころは、以下のように分類できる。

  1. ボス (PI) に払ってもらう。この場合、PI が取得した上記のような研究費の一部が人件費として使われることになる。
  2. 日本 (などアメリカ以外の国) からスカラーシップをもらう。
  3. アメリカからスカラーシップをもらう。

基本的には自国民が優先のようで、アメリカの公的・民間スカラーシップは、アメリカ国民を対象としたものが多い。研究活動が盛んな大学では、大学独自のポスドクスカラーシップもあるようなので、各大学のウェブサイトもチェックしておきたい。

日本人が応募できるものとそれ以外に分けてまとめる。この ハーバードのページ も参考になる。


日本人が応募できるもの

グラント コメント

上原記念生命財団

海外留学助成が有名。研究科長の推薦が必要で、1 推薦者に原則として 1 件なので、つまり学部または研究科で 1 人だけである。450 万円以内。

このハードルをクリアできれば、比較的採択率は高いという噂も。毎年 100 名前後が Research fellowship または Postdoctoral fellowship に採択されている。

来日研究助成、研究費、国際シンポ開催助成などもある。

Human Flontier Science Program

8 - 9 月。有名なスカラーシップ。ハイレベルという噂。どの国からも応募できるが、受け入れ研究者が member country の研究者でなければならない。

Challenging な生物学の基礎研究が対象で、Routine, Applied, Clinical, Environmental, Ecological なプロジェクトは対象外。

Research grant も募集している。上の表を参照のこと。

Jefferson Science Fellowship Program

US citizen のみ、10 月。テニュアレベルの faculty 向け、STEM グラント。

TWAS

発展途上国への支援を主体としたグラント。発展途上国へ「行く」グラントっぽい。

  • インドで研究したいポスドク、などの限定公募多し
  • Visiting researcher 向けなどもある

CAS PIFI

中国科学院 Chinese Academy of Sciences (CAS) から、ポスドク向けに CAS President’s International Fellowship Initiative (PIFI) というスカラーシップが毎年募集されている。詳細は検索のこと。

Davis-Putter Scholarship Fund

4 月。Peace and justice のために活動する学生向けのスカラーシップ。人種差別、性差別などに対抗する活動が例として挙げられているが、発展途上国での医療活動なども対象になりそう。$10,000/年。

Hubert Humphrey Fellowships in USA for International Students

10 月。アメリカのいくつかの host university 限定で、かつ行き先を選べないという色モノのスカラーシップ。文系学部の学生がグループ学習に行くような感じか。


その他のもの

グラント コメント

Jefferson Science Fellowship Program

US citizen のみ、10 月。テニュアレベルの faculty 向け、STEM グラント。

CAS PIFI

中国科学院 Chinese Academy of Sciences (CAS) から、ポスドク向けに CAS President’s International Fellowship Initiative (PIFI) というスカラーシップが毎年募集されている。詳細は検索のこと。


未整理・とりあえずリンク集

グラントと給与

教員

アメリカでは、9 ヶ月報酬システム を採用している大学が多い (1)。このシステムでは、6 - 8 月の給与が大学から支払われず、外部資金があればこの間の給与をそこから支払うことができる。つまり、グラントの有無が年収に大きく影響するのである。

給与は、通常は普段の給与、そのプロジェクトへの労働時間 (エフォート) などから計算される。自分で「$1,000,000 もらおう!」という感じにはならない。


ポスドク

教員同様に、所属機関ごとに計算式が定められているのが普通である。州の法律にも左右され、ポスドクの経験などによって給与が定まる。

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References

  1. 川崎 2001a. アメリカ暮らし雑感 (3) グラント. 比較生理生化学 18, 119. Link.
  2. 研究留学ネット NIH グラントのしくみ
  3. 伊藤. 若手研究者の活性化を促進する競争的研究資金 (研究グラント)の整備の必要性. リンク切れ http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/stfc/stt021j/0212_03_feature_articles/200212_fa01/200212_fa01.html
  4. NIH K Awards. Link: ここから色々とリンクあり。
  5. NIH SOP page Link.
  6. Amazon link: Making the Right Moves (English Edition), Ch.9. Getting Funded.

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